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フローベール『ボヴァリー夫人』不倫を芸術化【あらすじ・感想】

ボヴァリー夫人【要約・感想】アイキャッチ画像
しつもん君
フローベールの『ボヴァリー夫人』ってどんな小説?昔の外国の小説ってなんだかむずかしそう。実際の本を読む前にどんな内容かを知りたいな。

 

この記事では、上記の質問にお答えします。

 

こんにちは、書評ブロガーのリハビリ文学です。当ブログのコンセプトは「読書とテクノロジーで人生をイージー化」。ちょとむずかしめの本や新しいテクノロジーを分かりやすく紹介しています。読書量はオーディオブックも使って年間100冊程度。ふだんは介護施設のリハビリ職員として働き、老いや人生についてあれこれ考えてます。最近は暗号資産やNFTの勉強にハマり中
りはぶん

 

 本記事の内容

  • 『ボヴァリー夫人』読む前に
  • 『ボヴァリー夫人』あらすじ
  • 『ボヴァリー夫人』感想
  • 『ボヴァリー夫人』まとめ

 

 

 

『ボヴァリー夫人』をひとことで言うと…

恋に恋するメンヘラな人妻が不倫を重ねて自滅する話

 

…ちょっと言い方キツいですが、そんな感じです。ちなみに「メンヘラ」とはネット上でよく使われる言葉で、メンタルヘルス(心の健康)に問題を抱えた人を指します。

 

「ボヴァリー夫人」こと人妻エマの無双な妄想ぶりに要注目です。

 

エマの行動をバカにしているわけではありません。人間なら誰しも、欲望を前にすると合理的な判断ができなくなるものです。『ボヴァリー夫人』には、このような人間の動物としての非合理性が的確かつ芸術的に表現されています。

 

著者フローベールは、エマという登場人物のフィルターを通して、不倫という背徳的行為を芸術的に表現しています。登場人物の心理描写は緻密に描かれており、その結果、フローベールは「写実主義」という文学的スタイルを確立しました。

 

とはいえ…

 

良質な作品であっても、質問者のように外国小説に「むずかしさ」を感じている場合もありますよね。

 

そんなとき、まずは作品の前提や全体像をおさえましょう。
りはぶん

 

というわけで、内容をサクッと知りたい方は「読む前に」と「あらすじ」だけを読めばオッケーです。作品の前提知識がチェック出来たら、ぜひ原書を読んで下さい。

 

あるいは、映像で作品の全体像をイメージするのもおすすめです。

 

 『ボヴァリー夫人』を映像で楽しむ

 

▶︎ 映画『ボヴァリー夫人』

・Amazonプライム・ビデオなどの動画配信サービスで視聴可能
※契約中のVODサービスがあれば、検索してみてください。
・舞台設定は原作と異なるがエッセンスはつかめる。
・映画を2時間観るだけで物語の全体像が分かる。

 

それでは、行ってみましょう。

 

 

『ボヴァリー夫人』読む前に

 

 

ちょっと難しく感じる作品(特に外国の古典作品)を読む場合、原書を直接読む前に、ある程度の予備知識を持っておくことが重要です。

 

優れた文学作品とはいえ、国や時代が異なれば物語の内容をすぐにイメージ出来ない場合があります。その理由は、読者の頭の中に作品の時代背景や常識などの前提知識が不足しているからです。

 

この記事では、作品の基本情報、著者の略歴、時代背景などを簡潔にお伝えします。

 

ちなみに、書籍という文章コンテンツが読みにくい場合、オーディオブックや映画など、その他の関連コンテンツに触れることもおすすめです

 

 

基本情報

 

作品名 ボヴァリー夫人
著者 フローベール(1821ー1880:享年58歳)
出版国 フランス
出版年 1857年
執筆時の年齢 36歳
分量 長編小説
ジャンル 恋愛・不倫小説
電子書籍 ▶︎ Kindle本
関連の音声コンテンツ ×
関連の映像コンテンツ ▶︎ 映画『ボヴァリー夫人』
同世代の作家/代表作 ・メルヴィル(1819ー1891)/『白鯨』(1851)
・ボードレール(1821ー1867)/『悪の華』(1857),『パリの憂鬱』(1869)

 

 

時代背景

 

 

『ボヴァリー夫人』が発刊されたのは1857年、19世紀半ばのフランスです。

 

この頃のフランス国家は「フランス革命」や「ナポレオンのヨーロッパ支配」を経験しています。

 

「フランス革命」とは、フランス王のルイ16世が国民に処刑された事件の一連を指します。フランス皇帝ナポレオンは、優秀な戦略家として有名。

 

「ナポレオンのヨーロッパ支配」は、フランス国民の総意です。フランス国民がナポレオンを皇帝として選び「支配されること」を望んだからです。

 

フローベールの生きた時代は「国民の決定で国家を動かそうぜ・・・!」という共和制の意識が国民の中に強くありました。ヨーロッパ全土に小さな革命や戦争が勃発しています。

 

フローベール自身、27歳の時には二月革命(1848)、32歳の時にはクリミア戦争(1853)を経験しています。

 

このような社会秩序が不安定な状況で『ボヴァリー夫人』は人々に読まれました。

 

 

著者の略歴

 

Gustave Flaubert.jpg

 

著者のフローベール(1821ー1880)は、フランスの小説家。フランスのルーアン出身(ノルマンディ地方)で、外科医の息子として生まます。

 

フローベールは、少年時代から物語などの創作活動に意欲的であり、ロマンチックな想像にひたることが多かったようです。思春期、青年期ともに年上の女性との恋愛経験があり、このような体験が、彼の作品に大きな影響を与えています。

 

大学進学当初は、法律学を専攻しますが、適正を見出せず断念。また、この頃に出会った文学仲間の影響もあり、創作活動に専念するようになります。性格は神経症的な傾向で、精神的に苦しみも多かったようです。

 

『ボヴァリー夫人』(1857)は、フローベールが36歳のときに刊行されます。フローベールは、作者の空想や主観をセーブし、物事を客観的かつ精密な文体で描くことに専念しました。フローベールは、情景描写を最適化させるため、ひとつの比喩や形容詞を練りだすのに何日間もの時間を費やすことがあったそうです。

 

徹底されたリアリズム的な文章が「写実主義」というひとつの文学スタイルを確立しました。

 

現代小説において、写実主義は一般的な表現方法ですが、当時の文学作品には無かった手法です。

 

ちなみに「医者の人妻が不倫をする」というセンセーショナルな内容が 「公衆道徳に反する」という理由で裁判になったほど(結果は無罪ですが)。出版当時は、そんな時代でした。

 

原書を読む前に、前提条件をインストールしましょう。また映画などの関連コンテンツで作品の雰囲気や世界観をイメージするのがオススメです。さらに、同時代の作家の作品をあわせて読むことで、雰囲気を深堀りできます。
りはぶん

 

 

『ボヴァリー夫人』あらすじ

 

 

作品を楽しむために必要なあらすじは、

 

  • 商品レビュー
  • 舞台設定(時代・場所)
  • 登場人物(関係性)

 

の3つくらいです。

 

その他、作品独自のルールやテーマなどがあればおさえておきます。

 

むしろ、あらすじを読みすぎると「読まなくても分かった気になる」という危険性もあるので注意しましょう。

 

 

商品レビュー

 

娘時代に恋愛小説を読み耽った美しいエマは、田舎医者シャルルとの退屈な新婚生活に倦んでいた。やがてエマは夫の目を盗んで、色男のロドルフや青年書記レオンとの情事にのめりこみ莫大な借金を残して服毒自殺を遂げる。一地方のありふれた姦通事件を、芸術に昇華させたフランス近代小説の金字塔を、徹底した推敲を施した原文の息づかいそのままに日本語に再現した決定版新訳。

引用:Amazon(新潮文庫版の商品説明より)

 

商品レビューは、コスパの高い文章です。本を売るために書かれた文章だから、ムダが少ないです。

 

読者の興味を引くように端的にまとめられています。

 

商品レビューは、あらすじの「超概要」をつかむのに有効です。

 

 

舞台設定(時代・場所)

 

 

・時代:19世紀半ば。

・場所:パリ北部のヨシヴィルという田舎町。

 

 

ちょっとしたことですが、作品のロケーションを地図上でイメージしておくと便利です。

 

読書中に知らない地名(実在・架空ともに)が出てくることは、多々あります。

 

そんな時、物語の舞台設定を地図でイメージしておけば(メモをしておけば)、情報の迷子になりません。

 

 

登場人物(関係性)

 

 

かなり簡略化しましたが、これがチェックすべき主要メンバーです。

 

「木を見て森を見ず」状態にならないように注意しましょう。まずは、主な登場人物とその関係性をおさえます。そうすることで、脇役の魅力もしっかり理解できます。登場人物がたくさん増えると、誰が誰だか分からなくなる危険性があります。特に外国の作品は聞き慣れない名前が多いですし。

 

知らない固有名詞が増えると、頭がパンクします。外国語はなおのこと。

 

その結果、

 

よく分からない → 挫折 →  もう読まない → 成長できない

 

と、負のスパイラルに。

 

これは、もったいないです。

 

その解決策として、この登場人物の相関図をメモや付箋代わりに、途中、チラ見しながら読書することをおすすめします。

 

また、オーディオブックで作品を楽しむ場合にも、この登場人物の相関図は重宝します。オーディオブックは「返り読み」には不向きであるため、前提条件や設定を振り返るときに役立ちますよ。

 

 

『ボヴァリー夫人』感想

 

 

ここからは、引用を絡めた個人的な感想です。

 

結婚するまでエマは恋をしているように思っていた。しかしその恋からくるはずの幸福がこないので、あたしはまちがったんだ、と考えた。至福とか情熱とか陶酔など、本を読んであんなに美しく思われた言葉は世間では正確にはどんな意味でいっているのか、エマはそれを知ろうとつとめた。

引用:『ボヴァリー夫人』生島遼一訳(p 47:第1部_5)

 

夫シャルルは、妻エマとの結婚に満足しています。

 

しかし、一方のエマは、シャルルとの結婚に物足りなさを感じています。

 

エマにとって、結婚とは恋愛の延長線上にある「ロマンチックな世界」でした。エマは少女時代から恋愛小説を好み、さまざまな空想をふくらませていました。そのため、彼女の頭の中には恋愛や結婚に対する「正解」があります。

 

エマは、シャルルとの結婚を通して「答え合わせ」を行いますが「正解」を見出すことが出来ず、困惑しています。

 

彼女は、わが欲望のなかに、ぜいたくの官能と心のよろこび、習慣の典雅さと感情のこまやかさ、を混同していた。恋にも、インドの植物のようにそのためにできた土地と特殊な気温が必要なのではないか。

 

引用:『ボヴァリー夫人』生島遼一訳(p 78:第1部_9)

 

小説の冒頭部分、エマは恋愛や結婚に対するフラストレーションをどこに向けるべきか悩んでいます。

 

エマは上手くいかない恋愛感情の原因を、自分という「内部」ではなく、他人という「外部」にもとめました。

 

ーーー自分の結婚生活に満足出来ないのは他人のせい

 

これだけ聞くと、エマは単なるジコチュー女に思えます。ところが、フローベールの天才的ライティング技術によって、彼女の歪んだ自己肯定感に共感しそうになります。もっとも、この筆圧こそが『ボヴァリー夫人』の真骨頂であるように思います。

 

で、彼女の心の憂さから生じた数々の憎しみを夫ひとりの上に集中した。憎悪をへらそうと努力すればするほどかえって大きくなった。このような無益な骨おりがほかの絶望の原因にくわわって、いっそうへだたりを強めていくのだ。おとなしくやさしくしようとする気持ちからかえって反抗心が生まれた。家庭生活の平凡さが彼女のぜいたくな空想をさせ、夫婦間の愛情は不倫な欲望へと駆りたてた。

 

引用:『ボヴァリー夫人』生島遼一訳(p 142ー143:第2部_5)

 

小説の中盤の第2部では、レオンとロドルフとの交流が描かれています。エマは恋愛の「正解」を得るために行動に出ます。しかし、それは「自分」ではない「他人」を軸にしたものです。

 

そう、不倫です。

 

安定ゆえに不安定さを求める、という皮肉な精神的メカニズムですね。

 

不倫は、社会的・道徳的メリットから考えると、きわめてコスパの悪い行動であり、非合理的です。

 

しかし、人間は感情の動物。ことに恋愛モードだと脳科学的にも合理的な思考が出来ない状態になるようです。フローベールは、恋愛における非合理的な人間行動を、芸術的な文体でとらえ、価値あるものに昇華させています。

 

いままでの多くの裏切り、あさましかった行為、自分を悩ましていた数えきれぬ欲望も、これでケリがついた、エマは心のうちでそう思っていた。もう誰も憎んでいなかった。はっきりとせぬ薄暗がりが彼女の心に落ちかかっていた。地上のすべての物音のうち、ただあわれな夫の胸からとぎれとぎれ発する嘆きお声だけが耳にきこえた。かすかにこころよく、遠ざかっていく交響楽の余韻のように。

 

引用:『ボヴァリー夫人』生島遼一訳(p 446:第3部_8)

 

小説終盤の第3部では、ロドルフやレオンとの不倫関係のピークは過ぎています。

 

エマの「答え合わせ」に対する「解答」は何か。

 

フローベールの「解答」は、上記引用に示されているように思います。

 

読者である私たちは、小説という比喩の総体をどのよう受け止めるか。

 

ぜひ、ご自身の問題意識や目的に合わせて『ボヴァリー夫人』を手に取ってみて下さい。

 

 

『ボヴァリー夫人』まとめ

 

 

 

 基本情報

作品名 ボヴァリー夫人
著者 フローベール(1821ー1880:享年58歳)
出版国 フランス
出版年 1857年
執筆時の年齢 36歳
分量 長編小説
ジャンル 恋愛・不倫小説
電子書籍 ▶︎ Kindle本
関連の音声コンテンツ ×
関連の映像コンテンツ ▶︎ 映画『ボヴァリー夫人』
同世代の作家/代表作 ・メルヴィル(1819ー1891)/『白鯨』(1851)
・ボードレール(1821ー1867)/『悪の華』(1857),『パリの憂鬱』(1869)

 

 商品レビュー

娘時代に恋愛小説を読み耽った美しいエマは、田舎医者シャルルとの退屈な新婚生活に倦んでいた。やがてエマは夫の目を盗んで、色男のロドルフや青年書記レオンとの情事にのめりこみ莫大な借金を残して服毒自殺を遂げる。一地方のありふれた姦通事件を、芸術に昇華させたフランス近代小説の金字塔を、徹底した推敲を施した原文の息づかいそのままに日本語に再現した決定版新訳。

引用:Amazon(新潮文庫版の商品説明より)

 

 引用を含めた感想

で、彼女の心の憂さから生じた数々の憎しみを夫ひとりの上に集中した。憎悪をへらそうと努力すればするほどかえって大きくなった。このような無益な骨おりがほかの絶望の原因にくわわって、いっそうへだたりを強めていくのだ。おとなしくやさしくしようとする気持ちからかえって反抗心が生まれた。家庭生活の平凡さが彼女のぜいたくな空想をさせ、夫婦間の愛情は不倫な欲望へと駆りたてた。

引用:『ボヴァリー夫人』生島遼一訳(p 142ー143:第2部_5)

 

安定ゆえに不安定さを求める、という皮肉な精神的メカニズム…。

 

『ボヴァリー夫人』の読後感には、人間の欲望が漂っています。

 

恋愛に限らず、お金や地位や名誉など、人間の「果てない欲望」には思わずため息が出ます。あまり良い気分ではないけれど、人間や自分自身の理解を深めるためには、この「果てない欲望」の存在を無視してはいけないように感じました。

 

もちろん、小説の感想は人それぞれだと思います。定めようがありません。ただ、ひとつの読み方として、物語の前提知識や基本情報をおさえ、読書されることをおすすめします。

 

本記事は、作品を読む際のコンパスのようなものです。

 

方向性が決まれば、それぞれの目的で『ボヴァリー夫人』を楽しんで下さい。

 

 

最後までブログを読んでいただき、ありがとうございました。
りはぶん

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