
この記事では、上記の質問にお答えします。

本記事の内容
- 『高慢と偏見』読む前に
- 『高慢と偏見』あらすじ
- 『高慢と偏見』感想
- 『高慢と偏見』まとめ

・中野康司訳(2003)
・小山太一訳(2014)
・大島一彦訳(2017)
『高慢と偏見』をざっくり言うと…
語り手のエリザベスは「人間ウォッチング」が得意なつもり。でも、観察日記と現実を見比べると、バイアスだらけであることを知る。ことに恋愛感情については見誤ることが多い。エリザベスは、このバイアスを自己成長のきっかけとしてとらえ、女性として人として成長していく。
みたいな感じです。
『高慢と偏見』は今から約200年前のイギリスで書かれた恋愛小説。
舞台は18世紀イングランドの平凡な田舎町。当時のイングランドには、現代よりもきびしい階級制度がありました。
物語には階級を飛び越えた若い男女の恋愛もようが描かれています。
階級社会になじみのすくない現代日本でも『高慢と偏見』が読み継がれてるのは、作品の中に時代を超えた普遍的な人間心理が描かれているから。
とはいえ…
海外の古典文学の翻訳を活字で読むのは、けっとう大変かも。質問者のように難しく感じている人もいるでしょう。

というわけで、内容をサクッと知りたい方は、本記事の「読む前に」と「あらすじ」を読めばオッケーです。
あるいは、映像で作品の全体象をイメージするのもおすすめです。
『高慢と偏見』を映画で楽しむ
・Amazonプライム・ビデオなどの動画配信サービスで視聴可能
※契約中のVODサービスがあれば、検索してみてください。
・舞台設定は原作と異なるがエッセンスはつかめる。
・映画を2時間観るだけで物語の全体像が分かる。
作品の世界観やイメージがつかめたら、ぜひ原書を読んで下さい。
『高慢と偏見』読む前に
ちょっと難しく感じる作品(特に外国の古典作品)を読む場合、原書を直接読む前に、ある程度の予備知識を持っておくことが重要です。
優れた文学作品とはいえ、国や時代が異なれば物語の内容をすぐにイメージ出来ない場合があります。その理由は、読者の頭の中に作品の時代背景や常識などの前提知識が不足しているからです。
この記事では、作品の基本情報、著者の略歴、時代背景などを簡潔にお伝えします。
ちなみに、書籍という文章コンテンツが読みにくい場合、オーディオブックや映画など、その他の関連コンテンツに触れることもおすすめです。
基本情報
作品名 | 『高慢と偏見』 |
著者 | ジェーン・オースティン(1775ー1817:享年41歳) |
出版国 | イングランド |
出版年 | 1813年(推定執筆年1796〜1797年) |
執筆時の年齢 | 20〜21歳(出版時は38歳) |
分量 | 610ページ |
ジャンル | 恋愛小説 |
電子書籍 | ▶︎ Kindle本 |
関連の音声コンテンツ | × |
関連の映像コンテンツ | ▶︎ 映画『プライドと偏見』 |
同世代の作家/代表作 | ・スタンダール(1783ー1842)/『恋愛論』(1822)『赤と黒』(1830) |
時代背景
『高慢と偏見』は1813年に発行されました。19世紀前半のイングランドです。当時のイングランドには厳格な階級制度がありました。
イングランドの階級制度は、
- 上流階級
- 中産階級
- 下流階級
の3段階です。
さらに上流階級は、
- 国王クラス
- 貴族クラス
- 地主クラス
の3つに細分化されます。
現代イギリスにおいても、この階級制度は社会的・文化的に残っているようです。
一方、欧米としての時代背景は、階級社会に揺さぶりをかけるような歴史的な転換期でもありました。著者オースティンの生まれた頃、アメリカ独立宣言が出され、20代の半ばにはフランス革命が勃発しています。
著者の略歴
参照画像:Wikipedia
著者のジェーン・オースティン(1775ー1817)は、イギリスの小説家。出身はイングランド南岸部ハンプシャー州。オースティンの属した階級は、上流階級の中の地主クラスです。
7人の兄弟と姉の中で成長して幼少期より文学作品を読み漁り、20代になると、自身のノートに小説の元ネタとなる習作を書き溜めていたようです。『高慢と偏見』についてのメモをこの頃に書かれたもの。
30歳の頃に牧師であった父が亡くなります。その後は、母と姉、友人とともに女性だけの生活を送り、創作に専念しました。
オースティンは自ら経験したことを中心に書く傾向が強い作家でした。実際『高慢と偏見』のように平凡な田舎の出来事を描いた作品が多いです。オースティンの魅力は、その洞察力と解釈能力で、何気ない日常の中にユーモアやアイロニーを投影しています。
興味深いことに、フランス革命が起こった激動の時代ですが『高慢と偏見』には、このような歴史的出来事は書かれていません。
また、オースティンは当時の文壇や同世代の作家との交流はなく、作品はすべて匿名で発表していました。
41歳のときアジソン病により死去。かなりの短命ですね。

『高慢と偏見』あらすじ
あらすじを理解するポイントは、
- 商品レビュー
- 舞台設定(時代・場所)
- 登場人物(関係性)
の3つです。
その他、作品独自のルールやテーマがあればチェックします。
あらすじを読みすぎると「読まなくても分かった気になる」という危険性もあるので注意しましょう。
商品レビュー
十八世紀末イギリスの田舎町。ベネット家の五人の子は女ばかりで、母親は娘に良縁を探すべく奮闘中。舞踏会で、長女ジェインは青年ビングリーと惹かれ合い、次女エリザベスも資産家ダーシーと出逢う。彼を高慢だとみなしたエリザベスだが、それは偏見に過ぎぬのか?世界文学屈指の名ラブストーリー。
引用:Amazon(新潮文庫版の商品説明より)
商品レビューは、コスパの高い文章です。本を売るために書かれた文章だから、ムダが少ないです。
読者の興味を引くように端的にまとめられています。
商品レビューは、あらすじの「超概要」をつかむのに有効です。
舞台設定(時代・場所)
・時代:18世紀。
・場所:イングランドの田舎町ロングボーン(ロンドンから北西部に100キロほど離れたところ)
作品の舞台を地図上でイメージしておくと便利。
読書中、知らない地名(実在・架空ともに)がどんどん出てくることがあります。
そんな時、物語の舞台設定を地図でイメージしておけば(メモをしておけば)、迷子になりません。
『高慢と偏見』の舞台は「ロンドンからだいぶ離れた田舎町」くらいにイメージしておけば大丈夫です。
登場人物(関係性)
ここでは、主な登場人物のみ。主演レベルのエリザベスとダーシーは白抜きにしました。
おさえておくべき関係性は、
- 上流階級の地主クラス(エリザベスの親戚)
- 上流階級の貴族クラス(ダーシーの親戚)
の2つです。
エリザベスとダーシーの関係性をおさえておけば、その他の登場人物も紐付いてイメージ出来ます。
登場人物がたくさん増えると、誰が誰だか分からなくなる危険性があります。特に外国作品は聞き慣れない名前が多いですし。
あと、エリザベス、ダーシーの所属階級を理解しておきましょう。
18世紀イギリスの階級社会
メタ認知的に、この階級ピラミッドを頭に入れておくと、物語全体がスムーズに入ってきます。エリザベスはダーシーより社会的身分が低いことがひと目で分かりますよね。
特に海外の古典的な作品にふれるときは、このような大前提をおさえておく必要があります。
知らない固有名詞が増えると、頭がパンクします。
そこで、パンクしないためにも、この登場人物の相関図をメモや付箋にして、チラ見しながら読書することをおすすめします。
また、オーディオブックで作品を楽しむ場合にも、この登場人物の相関図は有用。オーディオブックは「返り読み」には不向きであるため、前提条件や設定を振り返るときに役立ちます。
『高慢と偏見』感想
ここからは、引用を絡めた個人的な感想です。
※引用は、実際に私が読んだ小山太一氏訳(新潮社)から。
※皆さまが読む場合は、ご自分に合った訳文を選んで下さいね。
「とてもよくある欠点だと思うの。たくさんの本を読んで分かったんだけど、人間、誰しも自尊心はすごく弱いものなのね。あることないこと理由をつけて自己満足しないでいる人なんて、数えるほどしかいないわけ。でも、虚栄心と自尊心は別ものよ。一緒くたにしている人が多いけどね。虚栄なしで自尊心を持つことだってできるの。自尊心はわたしたちの自己評価から生まれるけど、虚栄心の源は、他人にどう思われたいかということなの」
引用:『自負と偏見』小山太一訳(新潮社)p31 第5章
ベネット家内で、貴族階級のビングリーやダーシーについてのうわさ話をする場面。ダーシーのやや横柄な態度に、姉妹同士、個々の意見を交えています。
そこで、メアリー(5女)の発言。これは、金言ですね。自尊心は自分をどう思うかであり、虚栄心は他人からどう思われたいか。
オースティンの虚栄心と自尊心に関する姿勢が端的に示されているように思います。
「ああ、なんて馬鹿だったんだろう!人を見る目があるなんて、どれだけ自惚れていたんだろう!なんでもお見通しのつもりで、自身たっぷりだったくせにーーー姉さんが周りを善意の眼でしか見ないと笑い者にしたり、自分は頭がいいつもりでやたらと人を疑ったりしていたくせに。ーーー本当に屈辱ーーーだけど、当然の屈辱よ!ーーーたとえ恋にのぼせ上がったとしても、ここまで物が見えなくなったりしなかったはずだもの。しかも、わたしの馬鹿さ加減は恋のせいじゃなくて、虚栄心のせい。
引用:『自負と偏見』小山太一=訳(新潮社)p332 第36章
ここは、エリザベスが心中を告白する場面。エリザベスは、貴族クラスに属するダーシーとウィッカムを次のように評価していました。
・ダーシーは、他人に対して横柄な態度を取る人間
・ウィッカムは、ダーシーの権限によって教会職につけなくなった被害者
ところが、とある一通の手紙を読んだところ、ウィッカムの「ダメ男」ぶりを知り、エリザベスの評価は一変しました。エリザベスは、自分自身の「人を見る眼」があまりにも的外れであることが分かり、反省をしています。
それまで、エリザベスは「他人を見る目」に自信過剰で、慢心しているところがありました。
たしかに、エリザベスの洞察力は高く、周囲に一目置かれるレベルです。しかし、誰しも物事を100%正確に判断することは出来ません。人間である以上「確証バイアス」という「思い込み」から逃れることは難しいですね。
「どうしても甥と結婚するというのね?」
「そんなことは申し上げておりません。わたしはただ、自分の幸せは自分で選ぼうと決心しているだけです。あなたにも誰にも、気がねするつもりはありません。関係のない人たちなんですから」
引用:ジェイン・オースティン『自負と偏見』小山太一=訳(新潮社)p31 第56章
この場面は、キャサリン夫人の質問に対するエリザベスの返答。
キャサリン夫人は、婚約を破棄させるため、ベネット家にやって来ました。
貴族クラスのキャサリン夫人は、甥っ子のダーシーが、格下のエリザベスと結婚することに猛反対します。
ところが、エリザベスは、キャサリン夫人の申し出に一切ブレず、自身の考えを淡々と説明しています。
現代の結婚で「自己決定」は一般的な発想でしょう。しかし、当時のイギリス階級社会において、階級差の結婚で「自己決定」をするのは相当ハードなことです。
時代背景や『高慢と偏見』がペンネームで出版されていた事実などを踏まえると、当時の女性が自分の人生を自分で選ぶことの難しさが伝わってきます。
『高慢と偏見』まとめ
最後に、本記事のまとめとして、
- 『高慢と偏見』読む前に
- 『高慢と偏見』あらすじ
- 『高慢と偏見』感想
の3つをサクッと振り返ります。
まとめ①_読む前に
原書を直接読む前に、ある程度の予備知識を持っておくことが重要です。優れた文学作品とはいえ、国や時代が異なれば物語の内容をすぐにイメージ出来ない場合があります。
その理由は、読者の頭の中に作品の時代背景や常識などの前提知識が不足しているからです。
書籍という文章コンテンツが読みにくい場合、オーディオブックや映画など、その他の関連コンテンツに触れることもおすすめです。
・基本情報
作品名 | 『高慢と偏見』 |
著者 | ジェーン・オースティン(1775ー1817:享年41歳) |
出版国 | イングランド |
出版年 | 1813年(推定執筆年1796〜1797年) |
執筆時の年齢 | 20〜21歳(出版時は38歳) |
分量 | 610ページ |
ジャンル | 恋愛小説 |
電子書籍 | ▶︎ Kindle本 |
関連の音声コンテンツ | × |
関連の映像コンテンツ | ▶︎ 映画『プライドと偏見』 |
同世代の作家/代表作 | ・スタンダール(1783ー1842)/『恋愛論』(1822)『赤と黒』(1830) |
まとめ②_あらすじ
・商品レビュー
娘時代に恋愛小説を読み耽った美しいエマは、田舎医者シャルルとの退屈な新婚生活に倦んでいた。やがてエマは夫の目を盗んで、色男のロドルフや青年書記レオンとの情事にのめりこみ莫大な借金を残して服毒自殺を遂げる。一地方のありふれた姦通事件を、芸術に昇華させたフランス近代小説の金字塔を、徹底した推敲を施した原文の息づかいそのままに日本語に再現した決定版新訳。
引用:Amazon(新潮文庫版の商品説明より)
・舞台設定(時代・場所)
時代:18世紀
場所:イングランドの田舎町ロングボーン(ロンドンから北西部に100キロほど離れたところ)
・登場人物(相関関係:図参照)
・エリザベス(上流階級の地主クラス)
・ダーシー(上流階級の貴族クラス)
まとめ③_感想
「とてもよくある欠点だと思うの。たくさんの本を読んで分かったんだけど、人間、誰しも自尊心はすごく弱いものなのね。あることないこと理由をつけて自己満足しないでいる人なんて、数えるほどしかいないわけ。でも、虚栄心と自尊心は別ものよ。一緒くたにしている人が多いけどね。虚栄なしで自尊心を持つことだってできるの。自尊心はわたしたちの自己評価から生まれるけど、虚栄心の源は、他人にどう思われたいかということなの」
引用:『自負と偏見』小山太一訳(新潮社)p31 第5章
『高慢と偏見』の個人的な読後感は「人間、やっぱり調子に乗るのは良くないね」という感じです。
高慢とは人間ならば誰にでもある弱点。自尊心は、自分自身をどう見るか、という客観的視点。虚栄心は、他人からどう見られたいか、というエゴですね。
人間は良くも悪くも、うまくいっているときは、慢心してしまうものであり、自分自身が見えにくくなるものです。このような人間の性を、オースティンは、簡潔な文体で登場人物に語らせています。
私たちも、日々の仕事や日常生活で「ちょっと偉そうになっていないか?」自己チェックする週間があるといいですね。うまくいっているときほど。
本記事は、作品を読む際のコンパスのようなものです。
実際、それぞれの目的や方法で『高慢と偏見』を楽しんで下さい。
・中野康司訳(2003)
・小山太一訳(2014)
・大島一彦訳(2017)
